karasuba-01

艦これ二次創作小説『鴉羽の海へ』特設サイトです。

仕様

初版限定、黒ベタ黒箔押し特殊装丁

その他の仕様

C86委託頒布場所

  • 1日目 ケ-04b
  • 1日目 M-12ab
  • 1日目 コ-35ab
  • 2日目 パ-59b
  • 3日目 R-27b
  • 価格

    1,000円

    判型

    新書判(103mm × 182mm)

    ページ数

    32ページ

    著者

    Enbos嵯峨崎新聞社

    装丁・編集

    仁田坂淳史月刊おれのダシ編集部

    発行

    月刊おれのダシ編集部

    印刷

    サンライズ

    試読

    洋三の保持する艦隊は第一から第四まで存在し、その中でも第二艦隊に羽黒は配属となった。
    鎮守府での生活は、羽黒の想像以上に楽しいものであった。他の艦隊との訓練では自分よりも練度の高い艦に戦闘のアドバイスをもらうこともできたし、同型艦の姉である妙高や那智、足柄とも再会することができた。

    時折秘書官として第一艦隊へ編入することも多く、その際は洋三と行動を共にし、兵站についての補佐を行うこともあった。その折、彼女は洋三の闇に触れることになる。
    暦は5月半ば。爽やかな夏色がちらつき始めた時節であった。

    「あの、司令官さん……?」
    頼まれていた書類を手に執務室の扉をノックしたが返事が無く、羽黒はそう言いながら、音を立てないようゆっくりと扉を開いた。仄かに香る麝香がゆるい風と共に窓から流れ、羽黒の髪を揺らす。差し込む白い明かりに体を預けるように、洋三は椅子に座って居眠りをしていた。
    頬杖をついたまま静かな寝息を立てている洋三を見て、羽黒ははにかむ。
    この御方も、緊張を解いて無防備になることもあるのだ。いつも厳格で隙がなく、的確な指示と容赦のない作戦であらゆる深海棲艦を殺し尽くす、無慈悲で無遠慮な鬼提督——そう噂される歴代最速の中将は、こうしてみればただの男で、ただの人であった。
    「あっ……!」
    ……ふと、羽黒は全身が粟立った。眠っている洋三の目から、一筋涙がこぼれたのである。鬼の目にも涙という言葉があるが、羽黒の抱いた感想はそれとはまるで逆だった。
    素直になれない子供。
    強がることに慣れきってしまった子供。
    羽黒よりも頭ふたつほど大きく、厚い胸板と頼りでのある肩幅を持つ、例えるならば鍛えあげられた歴戦の胴田貫のようなその男が、羽黒の目にはそう映ったのである。

    気づいた時には、羽黒は書類を取り落とし、洋三を抱きしめていた。
    この鎮守府へと初めて来た時、自分の心から不安を吹き飛ばしてくれた男の涙を、彼女は止めたいと思ったのだった。
    「——ッ、離せッ! 貴様、何を——」
    目を覚ました洋三は、羽黒を突き飛ばそうと腕を突っ張る。だが、羽黒はそれを許さなかった。今この男を離してしまえば、二度と踏み込む機会を逸してしまう。そんな気がしていた。
    「貴様、羽黒ッ! やめろ!」
    「い、いやです、いやです!」
    洋三は勢い良く立ちあがる。大きな音とともに椅子が倒れ、足元に落ちている書類が踏まれてひしゃげた。それに足をとられ、洋三はたたらを踏む。
    羽黒は首へぶら下がるような形となり、重みに耐えかねた二人は臙脂色の絨毯へと勢い良く倒れこんだ。腕が洋三の下敷きとなり鋭い痛みが走ったが、それでも羽黒は絡ませた腕を解かない。
    「この——!」
    上半身を起こした洋三は振りかぶり、ついにその拳を羽黒の下腹に叩きこんだ。深海棲艦上がりの羽黒には内臓が揃っている。めり込んだ拳からこみ上げる吐き気と痛みを堪えながら、羽黒は叫んだ。
    「ぐ、え——い、やです、嫌ですッ!」
    二度、三度……太い腕が、拳が、同じ場所を貫く。その度に羽黒はうめいた。
    「糞、畜生が、離せ、離せッ!! 貴様ァ、殺す、殺してやるッ!!」
    「んぐ——あ、かは……」
    ついに羽黒の腕から力が抜けた。肩口を勢い良く突き飛ばされ、彼女は背中をしたたかに壁へと打ち付けると、崩れ落ちるようにへたり込む。鈍く痛みを主張する腹をかばうようにうずくまり、痙攣する横隔膜にまかせて咳を吐いた。
    「……貴様、何を、考えている」
    羽黒を見下ろし、肩で息をしながら、洋三は額の汗を拭った。目には憤怒が燃え、軍人らしい強烈な殺意がそこからあふれている。その横にひとすじ残る涙の跡を、羽黒は横目でずっと見つめていた。
    「営倉行きになりたいか、それとも解体されたいか。貴様の代わりはいくらでもいるんだぞ……」
    脅しか本気か、洋三は口の端を持ち上げながら言い放つ。腰に手を当て、彼は一度天井を見上げながら大きなため息をつき、鼻をすすった。
    「畜生が……」
    言いながら、洋三は羽黒に背を向け、目許に手をやると、肩を震わせた。
    「畜生……」
    先ほどまでの殺気は急激に鳴りを潜め、同時に大きな背中が丸くなる。
    「司令官さん……」
    「見るな、馬鹿が。貴様、覚悟……覚悟しておけ」
    声が震えている。
    洋三は泣いていた。突然の出来事に夢と現が混ざったのだろう。
    羽黒はそれを見て、すとんと胸のうちに落ちるものがあった。
    自分の痛みよりも大切なものがある。自分の何を犠牲にしても、この男を守れるのならば、それでいい。
    建造から現在までの、ほんの短い記憶で構築された世界で、羽黒は生きる意味と死ぬ理由を同時に見つけることができたのだった。
    「殺してください……それで司令官さんが……泣き止むなら」

    via. ◯艦これ2次創作小説「鴉羽の海へ」 サンプル1 – Enbosおじさんが川原でブツブツ言う

    鴉羽の海へ

    試読2

    暦は十月を指していた。冬の気配が近づき、海からの風も時折凍るような冷たさを運んでくる。空は分厚い雲で灰色に変色しており、雨の気配が色濃く漂っていた。

    「ああもう、寒いぃ……このままじゃ風邪ひいちゃうっぽい……!」
    夕立は自分の腕をさすりながら、黒い海の上で歯を鳴らした。犬科動物のようにはねた髪の毛は、すっかり元気を無くしている。いくら艦娘のブーツに水切りの加工がされていようと、飛沫は完全に防ぐことはできない。冬の海はそれだけで艦隊の士気を大きく削いでいた。
    「はあ……夕立、お前はまだいいよ。吾輩は正直、この服着替えたくて仕方ないぞ……お前みたいにエンジン背負ってないし」
    夕立の背中にあるエンジンの排気に手をかざしながら、利根は言う。重巡洋艦は基本的にエンジンを内包しており、そのせいで体温はある程度高いものの、相対的に寒がりであることが知られていた。付け加えて利根は改造を二度終えており、その制服は四肢の半分が露わになったものとなっている。当然そこは肌が露出しており、飛沫は容赦なくそこを襲った。
    「寒い寒いと煩いな。鍛え方が足りんのだ貴様らは」
    大口径の砲門をゴウゴウと動かしながら、長門は腕を組んで鼻を鳴らす。利根を一瞥してプイと明後日の方向へと視線を動かすと、そこにはあくびをする北上がいた。
    「暑苦しいのもやだけどねぇ……」
    「あ?」
    「おーこわ、なんでもないですよーっと」
    ペロリと舌を出しながら、北上は羽黒の後ろへと隠れた。利根と同じく改造を二度終えた彼女は、制服を無視して腹巻きを装着している。艦装への干渉はなかったが、明らかに軍規違反であった。しかしながらそれを咎めるものもいない。北上は皆より一目置かれている上、その奔放な性格を皆愛していた。
    羽黒はというと、例に漏れず改造を二度終えている。利根と同様にエンジンを内包してはいるものの、その制服はある程度防寒に適したものだった。
    「あの、皆さん、喧嘩はやめてください……!」
    「喧嘩じゃないですよー、長門さんが弱いものいじめしてるだけでーす」
    「何だと貴様。北上、お前はだいたい——」
    「静かに」
    加賀の鋭く通る声が長門を制する。ぐっと言葉を飲み込み、長門は声の方向へと素早く視線を動かした。夕立、利根、羽黒、北上も同様に、加賀の視線の先を追う。全員の視神経がギシリと軋み、網膜に映った像をより鮮明なものへと変える。
    「……いる」
    事前に加賀は嚆矢を放っていたらしく、それに乗った彩雲がおおよそ五キロ先、水平線に辺りで弧を描いていた。動きから察するに敵影は六。いつもどおりの戦闘だと加賀は判断し、長門へとひとつ目配せをした。
    「フン……そもそも私が第二艦隊というのが気に入らんがな。歴史とは違うということか」
    腕を組んだまま、長門は水平線の先を睨む。そのまま右手の人差し指を立てると、ゴクンと音を立てて砲塔が回った。その隣では加賀が弓を大きく引き絞り、放つ。山なりに飛んだ矢から鏃がはじけ飛ぶように、先端の艦載機は弾丸を超える速度で水平線へと爆進した。
    「加賀、確実に殺せるのはどれだ」
    「2秒時間を頂戴」
    直後、空と海を隔てる線に細く高い水柱が立ち上がった。一瞬遅れて轟音が響く。
    「水柱の左2メートル。外したわ、ごめんなさいね」
    「構わん、場所がわかればよしッ! 行くぞ、貴様ら!」
    「応ッ!」
    利根の返事を合図にして、艦隊は弾けるように水面を疾駆する。背後には機動により生まれた白波が砕け、次の瞬間その場所へ砲弾が突き刺さった。
    「おお、危ない危ない。あっちも気づいたかァ」
    「北上さん北上さん、あの駆逐艦殺して! 私もがんばるっぽい!」
    「あー……?」
    目を細めながら、北上は夕立の指差す先を見る。ゴマ粒のような敵艦が目視出来、それを確認して北上はニヤリと口の端を持ち上げた。
    「ああ、アレかぁ」
    隣にいる夕立は、キラキラと憧れに満ちた目で北上を見上げている。懐いた犬のように殺しをねだる夕立に、彼女は苦笑いを浮かべた。
    「はいはい。それじゃあちゃんと見てるんだよ……ッと!」
    向かい風の下へと潜りこむように、北上は膝を曲げ、正座を少し崩したような格好——亀居を取る。腿に据え付けられた40発の魚雷管は二層になっており、その層と層の間から北上は甲標的を繰り出した。
    「うっし、先行して潰してきな。がんばるんだよー」
    ギギッ、と機械的な返事をして、甲標的は海中へと没する。次の瞬間には白い泡の線を引きながら、艦隊の誰よりも早く敵艦隊へと突き進み、数秒後にゴマ粒は爆裂する水の飛沫の中に消えた。
    「すっごい!」
    「お見事です!」
    「トーゼン。残り5、あとは任せるわー」
    夕立と羽黒の賛辞を受け止めつつ、だるそうに亀居から立ち上がる、その表情は不敵そのもの。何を隠そう、北上は艦隊の中で最も練度が高かった。
    「長門よ、我輩たちも負けてられんな?」
    「笑ォ止!」
    「……ッ!」
    開幕雷撃が爆裂したのとほぼ同時、利根・長門・羽黒の三艦は左腕をまっすぐに伸ばす。そこへ背中から持ち上がったカタパルトが金属音とともに接続され、水上偵察機が射出された。
    敵艦の姿はすでにゴマ粒からビー玉ほどになっていた。間合いやよし、と長門は砲塔を回転させる。体にぶち当たる空気を引きちぎりながら、前傾に過ぎるほど体を水面に近づけて、彼女は歯を軋らせる。それは例えるなら四足獣の威嚇に似ていた。
    艦種として戦艦を名乗る艦娘は特に戦意が強く、四大欲求と呼べるほどに戦闘欲が強い。
    「加賀、援護は任せた!! 観測は私が先行する、羽黒、利根、夕立はそれに続けッ!! 」
    「応ッ!」
    「はいッ!」
    「わかったっぽい!」
    背中に聞こえる返事を飲み込み、長門は嗤う。
    「ビッグ7の力、侮るなよ……!」
    細められた瞳には、溶岩のような殺意が渦巻いている。噛み殺してやるといわんばかりに、もう一度長門は歯をむき出しにした。
    「いくぞ貴様ら!! 全砲門、斉射ァア!!!」
    絶叫と同時に、四十一センチ砲が轟音を響かせ炎を吹いた。
    敵が、来る!

    via. ◯艦これ2次創作小説「鴉羽の海へ」 サンプル2 – Enbosおじさんが川原でブツブツ言う

    鴉羽の海へ